14【遺産分割事件②】「うちは揉めない」は危険な落とし穴!遺産総額5000万円以下の家庭でトラブルが多発する現実

【遺産分割事件②】「うちは揉めない」?
遺産総額5000万円以下の家庭でトラブル多発!

前回、【遺産分割事件①】では、家庭裁判所に持ち込まれる「遺産分割事件」の件数がこの24年で約1.7倍に増加している現実をお伝えしました。

今回は、相続トラブルに関する最大の誤解である「財産が少ないから揉めない」という考え方の危険性を、遺産総額のデータから徹底的に掘り下げます。この現実を知ることが、家族を守る最初の一歩となります。

遺産総額5,000万円以下の家庭で約75%が発生

遺産分割を巡り争う家族の図

相続トラブルというと、大富豪や資産家といった「一部の富裕層だけの問題」だと考えがちです。しかし、最高裁判所の司法統計年報が示す事実は、その認識を大きく覆します。

遺産分割事件全体の約75%が、遺産総額5,000万円以下の家庭で発生しています。

この「5,000万円」という金額は、多くの人がイメージする「富裕層の莫大な財産」とはかけ離れた、ごく一般的なサラリーマン家庭でも十分到達し得る金額です。

【5,000万円以下の家庭でトラブルが多発する理由】

なぜ、財産が少ない家庭で争いが起こりやすいのでしょうか。

  1. 遺産の「分けにくさ」:遺産総額が少ないと、現金や株式ではなく「自宅不動産」など、分けにくい不動産の占める割合が高くなります。自宅は物理的に分割が難しいため、「売却して分ける(換価分割)」か「誰か一人が相続する代わりに他の相続人に現金を払う(代償分割)」しかなく、意見対立につながりやすいのです。

  2. 生活資金としての重要性:富裕層にとっての相続財産は「余剰資産」の一部かもしれませんが、一般的な家庭にとっての財産は「老後の生活を支える大切な資金」そのものです。そのため、数百万の差であっても当事者にとっては譲れない生活の死活問題となり、感情的な対立が深まりがちです。

  3. 大都市圏での不動産評価額:特に千葉県流山市を拠点とする当事務所の周辺のような首都圏などでは、不動産評価額が高くなります。ご両親が居住していた自宅の土地だけでも、評価額が5,000万円を超えるケースは珍しくありません。つまり、特別な資産がなくても、トラブルの多い層に含まれてしまうのです。

このことから、相続トラブルは一部の富裕層だけの問題ではなく、ごく一般的なご家庭で起こり得る現実であることを物語っています。

「揉めない」というセリフに潜む危険な落とし穴

「うちは揉めるほどの財産がないから大丈夫」というセリフは、行政書士としてよく耳にします。これは、謙遜しているのか、本当にそう信じているのか分かりません。ですが、こうした現状を考慮すると、この考え方は極めて危険な落とし穴かもしれません。

この言葉の裏には、主に二つの心理が隠れていると私は見ています。

心理①:「面倒なことには関わりたくない」という拒否感

相続手続きや、ましてや家族と向き合ってデリケートな財産の話をすることに対し、無意識の拒否感が働いています。「揉めないはず」と信じ込むことで、生前の対策という「面倒な作業」から目を背けている状態です。

しかし、この先送りこそが、いざ相続が始まってから「こんなはずじゃなかった」という後悔につながります。生前の対策は、親が子に遺す「最後の優しさ」であり、トラブルを未然に防ぐための必須の作業なのです。

心理②:「家族なら話し合えば分かるはず」という楽観的な期待

「家族だから、最後は譲り合ってくれるだろう」という楽観的な期待は、美しいものですが、相続においては非常に脆いものです。

当然ですが、家族であっても全員が同じ考え方や価値観を持っているわけではありません。特に、財産の話になった瞬間、「公平性」や「貢献度」に対する認識のズレが表面化します。

トラブルの真の原因は「お金」ではなく「感情」にある

相続トラブルの真の原因は、単純な「お金の多寡」ではないのです。
それは、目に見えない感情のズレです。

・親への想いのズレ
 「親の面倒を見ていたのは自分だ」「遠くにいた兄弟姉妹より自分が多くもらうべきだ」という貢献度のズレ

・過去の不公平感 
 「長男だけ優遇された」「あの時、親の援助を受けていたではないか」といった、過去の金銭的な援助や介護に関する不公平感

こうした感情的なもつれが、遺産分割という法律上の問題に結びつき、最終的に裁判沙汰へと発展してしまうのです。財産が5,000万円以下だからこそ「譲れない感情」が際立ち、問題が深刻化しやすいと言えます。

まとめ:安心を遺すために今すぐできること

最高裁判所のデータは、「相続は誰にでも起こり得る、ごく一般的なトラブル」であることを示しています。特に、財産が少ない家庭ほど、そのリスクは高まるのです。

多くの方が感じている『家族間のトラブル』という漠然とした不安の正体は、以下の2つに集約されます。

  1. 件数の増加(前回)
    裁判沙汰になるほどの深刻なトラブルが社会全体で増加している現実。

  2. 金額の誤解(今回)
    5,000万円以下の家庭でこそ争いが多発する現実。

この不安を解消し、ご家族に「安心」を遺すためには、生前に「遺言書作成」や「財産整理」といった具体的な対策を講じることが唯一の解決策です。

いちかわ行政書士事務所では遺言書作成をとおして、この「感情的なズレ」を最小限に抑え、ご家族が争うことなくスムーズに財産を引き継げるようサポートいたします。

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