07『介護の貢献』を無視しない!法定相続分を超えて献身的な家族に財産を遺す方法
『介護の貢献』を無視しない!法定相続分を超えて献身的な家族に財産を遺す方法
『長年、親の介護を献身的に行ってきた長男に、他の兄弟と同じ法定相続分しか渡らないのは不公平だ』。これは、相続の現場で最も多く、そして深く家族の間に溝を作る問題です。
介護は本来すべての家族が協力して行うべきことですが、実際には特定の家族に負担が集中しがちです。その献身的な貢献を、単なる『法定相続分』という冷たい数字で無視してはいけません。
この問題の仕組みを理解し生前に適切な準備をすることで、介護をしてきた家族の報われない感情を排除し、家族全員の平穏を守ることができます。
介護と貢献度をめぐる相続の基本ルール

親の介護に関する貢献を相続で報いるには、民法上の二つの基本的な概念と、その限界を知っておく必要があります。
家族全員にある『扶養義務』とは?
民法では、直系血族(親、子、祖父母など)および兄弟姉妹は互いに助け合わなければならないという『扶養義務』が定められています。
・意味
家族間で生活を経済的に支え合う、または精神的に支え合う義務のことです。
・具体例
経済的に困難な親に生活費を送ることや、病気になった親を看病することなどが該当します。
・ポイント
介護はこの扶養義務の一環として行われる側面が強いため、『貢献』として認められにくい場合があります。自分の義務を果たしただけ』と解釈されるため、特別な貢献があったと認められるハードルは高いのです。
法定相続分を超えた貢献を主張する『寄与分』の限界
法定相続分を超えて献身的な介護の貢献を評価してもらう仕組みとして、民法には『寄与分』という制度があります。
・寄与分
被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に特別に貢献した相続人に対して、法定相続分に上乗せして財産を分与する制度です。
しかし、この寄与分の主張が家庭裁判所で認められるのは非常に困難です。
・限界
前述の扶養義務との兼ね合いや『どの程度の介護が特別なのか』の証明の難しさから、認められる額はごくわずかか、全く認められないケースも少なくありません。
・トラブルの火種
寄与分をめぐる話し合いは他の兄弟姉妹の反発を招きやすく、家族間の感情的な対立を深める最大の火種となりがちです。
【令和元年施行】『特別寄与料』制度の誕生
従来の『寄与分』制度の限界を踏まえ、令和元年に『特別寄与料』という新しい制度ができました。
・意味
相続人ではない親族(例:長男の妻など)が、無償で療養看護(介護)を行った場合、その貢献度に応じて相続人に対し金銭の支払いを請求できる制度です。
・ポイント
これは、主に相続人ではない『嫁(配偶者の妻)』の献身的な介護が報われない問題を解決するために創設されました。これにより、相続人ではない献身的な家族の貢献が、金銭の請求という形で初めて法的に認められる道が開かれました。
しかし、この制度も遺産分割協議(話し合い)では解決できず、最終的には家庭裁判所の判断に委ねられ、多くの時間と精神的な負担がかかります。
介護の貢献を「無視させない」ための2つの確実な解決策

介護の貢献が後のトラブルにならないようにするためには、生前のご本人の意思を形にすることが何よりも確実です。
解決策1:遺言書による解決(最も確実)
介護をしてくれた特定の家族に多くの財産を遺したい場合は、その意思を明確に記した遺言書を作成することが最も確実です。
・遺言書の力
遺言書は、法定相続分や寄与分よりも優先されます。『長男に全財産の7割を遺す』という明確な意思があれば、原則としてその通りに財産を分けることができます。
・公正証書遺言の推奨
家族の間に争いを残さないために、法的な効力が最も強く、家庭裁判所での検認手続きが不要な公正証書遺言の作成を強くおすすめします。
解決策2:家族の理解を深めるための事前対策
遺言書を作成する際、他の兄弟姉妹が『遺留分(最低限保障された取り分)』を主張してトラブルになる可能性があります。これを防ぐためには、生前からの情報共有と協力体制の構築が不可欠です。
-
介護に関するメモを残す
介護に携わった家族は、介護の頻度、時間、内容(通院、オムツ交換など)を詳細に記録したメモを必ず残してください。これは、仮にトラブルになった場合の貢献度の証拠として非常に有力になります。 -
兄弟間での役割分担の明確化
親と同居している長男が実質的な介護をする場合、遠方に住む他の兄弟姉妹は『実質的な介護ができない代わりに資金援助をする』などの形で、金銭的なサポートを行うことを事前に約束してください。 -
効果
これにより、介護負担が集中している家族の報われない感情を排除できます。また、後々『介護を押し付けた』といった非難の声を防ぎ、『全員で協力した』という事実を残すことができます。
あなたの想いを形にするために
『介護の貢献』は、金銭では測れない家族の愛の形です。
その貢献を無視させず、家族間の平穏を守るためには生前の準備がすべてを決めます。
あなたの想いを確実に未来へつなぎ、『争族』の種を摘むために、まずはご自身の状況とご家族の想いを整理することから始めてみませんか。私は、あなたのデリケートな想いを法的に確実な文書にする専門家として、全力でサポートいたします。

