02「財産は自宅と預金だけ」でも遺言書が必要な理由:名義変更の壁を解説

「財産は自宅と預金だけ」でも遺言書が必要な理由:名義変更の壁を解説

財産がシンプルでも遺言書が必要なワケ

自宅の模型と鍵、そして契約書類。シンプルな財産でも必要な相続手続きを暗示する画像。

『うちの財産は自宅(不動産)と銀行預金くらいだから、わざわざ遺言書なんて必要ないだろう』

多くの方がそうお考えです。もちろん、財産の内容が複雑でなくても相続は可能です。しかし、遺言書がないことによってご家族が想像以上に大変な『壁』にぶつかり、時間と費用を浪費してしまう現実があります。

この記事では、財産が自宅と預金というシンプルなケースでこそ、なぜ遺言書が『家族の平穏を守る保険』となるのかを、名義変更の壁という視点から具体的に解説します。

預金口座の解約・名義変更に立ちはだかる「全員の合意」の壁

遺言書がない場合、故人名義の銀行預金や証券口座を解約・名義変更する手続きは、非常に煩雑になります。

(1) 相続人全員の署名・実印が必須

銀行は、『誰が、いくら相続するか』ということが確定するまで、故人の口座を凍結します。凍結を解除し、預金を引き出したり名義を変えたりするためには、以下の書類が必ず必要になります。

  • 相続人全員が参加して合意した『遺産分割協議書』
  • 相続人全員の署名と実印、印鑑証明書

相続人が一人でも手続きに協力しなかったり、連絡が取れなかったりすると、手続きは完全にストップしてしまいます。

(2) わずかな金額でもトラブルの火種に

『預金はたいした額ではないから』と思っていても、そのわずかな金額の分け方をめぐって意見が対立したり、実印を押すことを拒否されたりするケースは少なくありません。

特に相続人同士の関係が疎遠な場合、連絡を取り、全員の合意を取り付けること自体が大きな精神的負担となります。

自宅(不動産)の名義変更で直面する「共有名義」の壁

自宅不動産は、預金以上に厄介な問題を引き起こします。
遺言書がない場合、不動産は相続人全員の『共有名義』になる可能性が非常に高いからです。

(1) 共有名義がもたらす致命的なデメリット
不動産が共有名義になると、その後の活用や処分に以下のような致命的な問題が発生します。

・売却ができない
不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば、自宅を売却して介護費用や納税資金に充てることができなくなります。

・修繕・賃貸も難しい
賃貸に出したり大規模な修繕をしたりする場合にも、共有者(相続人)の多数決や全員の同意が必要になることがあります。

・さらに複雑な二次相続
共有者の一人が亡くなるとその持分がさらに次の世代に相続される『数次相続』となり、共有者が雪だるま式に増えていき、将来の権利関係が極めて複雑になります。

(2) 遺言書による解決の明確さ
遺言書があれば、これらの問題は一瞬で解決します。

・『この不動産(自宅)は長女に単独で相続させる』
この一文があるだけで他の相続人の合意を得る必要なく、単独で名義変更(相続登記)が完了します。

『もしも』の時に家族を悩ませないために

相続に関する名義変更について提案する行政書士のイメージ

財産がシンプルに見えても、名義変更の手続きはご家族の大きな負担となり『争い』の種を残しかねません。遺言書は、ご家族の平穏を守るための『最後の保険』です。

ここでは、遺言書がもたらす最大のメリットと、複雑なご家庭の状況に合わせた事前対策の重要性を解説します。

 

遺言書がもたらす最大のメリット

遺言書を作成する最大のメリットは、財産の多寡にかかわらず、ご家族に「争い」の種を残さないことです。

・手続きの円滑化
遺産分割協議書や相続人全員の実印を集める手間が不要になり、預金や不動産の手続きが大幅にスムーズになります。

・想いを伝える
『この自宅は、今後も住む〇〇(長男・長女など)に譲る』といったあなたの意思と理由を伝えることで、他のご家族も納得しやすくなります。

複雑な相続への事前対策

夫婦で共有名義の不動産を所有している、またはすでに認知症の配偶者がいる場合、遺言書がないと手続きはさらに複雑化します。

・認知症対策
配偶者が認知症(意思能力がない状態)で相続を迎えた場合、たとえ遺言書があっても、その方の共有持分の遺産分割協議は原則としてできません。しかし、ご自身(元気な側)の持分を誰に承継させるかだけでも遺言書で指定しておくことで、ご家族の将来の負担を大幅に減らすことができます。

 

いちかわ行政書士事務所 代表 行政書士 [市川 俊介]の顔写真

いちかわ行政書士事務所は、このような共有名義の財産構成や認知症の配偶者がいるといったご家族の状況を踏まえ、将来の手続き(名義変更、預金解約)を見据えた実務的に滞りのない遺言書作成をサポートいたします。

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