13【遺産分割事件①】相続トラブルの現実増え続ける「遺産分割事件」が語る家族の真実

【遺産分割事件①】相続トラブルの現実
増え続ける「遺産分割事件」が語る家族の真実

【全2回でお知らせする相続トラブルの現実】

「うちは財産が少ないから大丈夫」「家族だから話し合えばきっとまとまる」
相続について考えるとき、多くの人がこのように楽観的に考えがちです。しかし、家庭裁判所のデータが示す現実は、その楽観を揺るがします。

このシリーズでは、相続トラブルが「最終的な争いの場」へと発展した件数、すなわち「遺産分割事件」の推移に着目し、私たちが見過ごしがちな家族の真実を掘り下げていきます。今回は第1回として「事件件数の増加」について、次回は「遺産総額とトラブルの関係」について解説します。

そもそも「遺産分割事件」とは何か?

遺産分割事件についてのブログにおける、裁判所のイメージ図

遺産分割事件とは、相続が開始した後に相続人同士の話し合いや弁護士などを交えた交渉(遺産分割協議)で合意に至らず、争いの場が家庭裁判所に移行した件数のことです。

相続手続きの基本的な流れは、「話し合い(協議)」からスタートします。この話し合いで全員が納得できれば、裁判所にお世話になることはありません。

つまり、遺産分割事件として家庭裁判所に申し立てられた件数は、「家族間の感情的なもつれや価値観のズレが、法律的な手続きでしか解決できないレベルにまで達してしまったケース」の集計と言い換えられます。

遺産分割事件の件数はこの24年で約1.7倍に増加

遺産分割事件が年々上昇している図

では、実際にどれくらいの数の家族が、最終手段である家庭裁判所に争いを持ち込んでいるのでしょうか。最高裁判所が発表している「遺産分割事件」の件数に注目してみましょう。

遺産分割事件の件数は単なる数字の羅列ではなく、「家族間の話し合いでは解決できないほど深刻なトラブル」の発生件数を物語っています。

以下は、2000年(平成12年)以降の遺産分割事件の新受件数(調停・審判を含む)の推移です。

遺産分割事件の新受件数の推移(2000年~直近)

 西暦        件数
2000年     約8,900件
2003年      約10,000件
2008年      約11,300件
2013年      約12,300件
2019年      約14,200件
2022年      約16,700件
2024年      約15,300件

※出典:最高裁判所 司法統計年報(家事編)より抜粋・作成

件数は年々増加傾向にあり、特に2000年に約8,900件だったものが直近の2024年には約15,300件へと増加しています。この24年間で、遺産分割事件の件数は約1.7倍にも膨れ上がっているのです。

この増加は、単に「相続人が増えた」という高齢化の影響だけでなく「話し合いで解決できない問題が増えている」という、現代の家族関係の複雑さを映し出していると言えるでしょう。

水面下に潜む「氷山の一角」としての遺産分割事件

年間約15,300件という数字を見て、「思ったより少ない」と感じたかもしれません。しかし、この件数は「氷山の一角」に過ぎません。

遺産分割事件とは、当事者間の話し合いや弁護士などを交えた交渉(遺産分割協議)でも手が付けられなくなり、最終手段として家庭裁判所に持ち込まれた件数のことです。

家族との争いを避けたいという心理的な抵抗や、外部の専門家(弁護士など)を介入させることで裁判沙汰になるのを食い止める努力を考慮すると、この数字の背後には、結果的に裁判沙汰にならなかったものの、実際には深刻な亀裂を生んだトラブルが、この何倍、何十倍も存在していたことは容易に想像できます。

この増加傾向は「うちの家族は大丈夫」という根拠のない楽観論を打ち破り、生前の対策が急務であることを私たちに警告しているのです。

まとめ:漠然とした不安の正体を知る

いちかわ行政書士事務所 代表行政書士 市川俊介

「家族間のトラブル」という漠然とした不安の正体は、データが示すように、もはや特定の家庭の問題ではありません。ごく普通の家庭で、「話し合いではどうにもならない感情的なズレ」が発生し、増加しているのが現実です。

次回の記事【遺産分割事件②】では、「財産が少ない家庭」でこそ多くトラブルが発生しているという驚きのデータと、「うちは大丈夫」という考え方がいかに危険な落とし穴であるかについて、金額の側面から掘り下げて解説します。

不安を漠然としたものにせず、具体的な対策へと繋げるために、まずは現実を正しく認識することから始めましょう。

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